外国への特許出願方法。直接出願とPCT国際出願とは?




直接出願、パリルート出願、PCT出願・・・。
特許翻訳に関わっていると、これらの用語をトライアルや実ジョブなどでよく目にしますよね。

これらは全て、外国への特許出願に関する用語です。

今回は、これらの定義や違いに関してまとめてみたいと思います。

外国で特許を取得したいなら、外国への出願が必要

特許権の効力は、特許権を取得した国の領域内に限られます(「属地主義」と言います)。

つまり、外国でも特許権を取得したい場合、その国の特許庁に出願する必要があるのです。
(特許に限らず、実用新案、意匠及び商標に関しても同様)

外国への特許出願方法には、大きく分けて以下の2つがあります。

  • 直接出願
  • 国際特許条約(PCT)に基づく出願(PCT国際出願)


ざっくり言うと、

直接出願 = 各国の特許庁に直接出願する。様式なども各国のものに従う。

PCT国際出願 = 自国の特許庁に出願するだけで、各国の特許庁に出願したことになる。様式は国際的に統一されている。

といった感じですね。

では、個別に見ていきましょう!

直接出願

概要

こちらは名前の通り、各国の特許庁に直接出願する、という方法です。

特許出願書類の様式や記載言語、出願手続は各国毎に決まっているため、直接出願の場合はそれらのルールに従う必要があります。

つまり、

複数国に出願する場合、各国毎に異なる書類を用意して、異なる手続を踏む必要がある

ということです。
ちょっと面倒臭いですよね・・・。

また別の国から出願を行う場合、

多くの国では現地の代理人を通じて出願する必要がある

ようです。
各国に代理人を用意する、というのも大変そうですね。

パリ条約に基づく優先権を主張することも可能

同じ発明に関する特許権を2人以上の人に与えるわけにはいきませんよね。

そこで特許権の場合、

同様の発明について複数の特許出願がされた場合、原則として先に出願した人に特許権が与えられる

ことになっています(「先願主義」と言います)。

ところで日本以外にも複数の国で特許を取得したいという場合、直接出願では前述のように各国毎に出願手続を踏む必要があります。

その際、各言語に翻訳したり、様式を整えたり・・・しているうちに時間が経ってしまい、ライバル企業が同様の特許を先に出願してしまったらどうでしょう。

その企業に特許権が与えられてしまいます。これは悔しいですよね。

そこでこういった事態に陥らないよう、直接出願では

「パリ条約に基づく優先権制度」

というものを利用することができます。

これは、

「最初の出願(「優先基礎出願」と言います)から12ヵ月以内に他国の特許庁に対して直接出願をする場合、その出願の出願日は優先基礎出願の出願日とみなされる」

というものです。

つまり、最初に自国で出願した日を出願日として外国に出願することができるのです。
この場合、直接出願の準備をしている間に出願日が遅くなってしまう・・・といった心配がなくなり、審査を有利に進めることができます。

このように、後にした他国への出願が他者の出願に対して「優先的に扱われる」ことになるので、「優先権制度」というようです。

ただし上にも書きましたが、

「最初の出願から12ヵ月以内に出願する」

ということが条件です。

図で表すと

直接出願の流れを図で表すと、以下のようになります。


(出典:知的財産権制度入門(特許庁)

PCT国際出願

概要

直接出願では、特許出願書類の様式や記載言語、出願手続を各国のルールに合わせる必要がありました。

これだと、出願国が多くなるにつれて出願の手間が爆発的に増えるので大変ですよね。

そこで用意されているのが、この「PCT国際出願」という方法です。

PCTとは特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)の略であり、Wikipediaでは以下のように説明されています。

特許協力条約(とっきょきょうりょくじょうやく、Patent Cooperation Treaty、PCT)は、複数の国において発明の保護(特許)が求められている場合各国での発明の保護の取得を簡易かつ一層経済的なものにするための条約である。

出典:Wikipedia「特許協力条約」

複数の国での特許取得を簡単化しましょう~といった条約ですね。

この条約に加盟している国では、この「PCT国際出願」を行うことができます。

PCT国際出願では、

自国の特許庁に自国の言語&国際的に統一された様式で1度出願(「国際出願」)するだけで、他の指定国(PCT加盟国に限る)にも出願したのと同様の効果が得られます。

しかも、

各国への出願日は、国際出願日と同じになります。

つまり、


各国毎の出願ルールに則る必要がないから楽だし、
出願回数も1度で済むし、
各国への出願日は国際出願日と同じになるので審査でもライバル企業に対して有利に立てる、

ってことですね。

多くの国に特許出願をしたい場合、直接出願よりもPCT国際出願の方が楽そうです。

ちなみにどのような発明に対して特許を与えるのかという審査基準は国により異なるため、PCT国際出願とは言っても、出願の審査及び権利付与は国毎に行われます。

そのため、国際出願後には各国の国内手続に移行させる(「国内移行」と言います)必要があります。

この国内移行の際に、国際出願の内容を各国の言語に翻訳する必要があるのです。

「PCT出願の国内移行用に翻訳してください」というのは、この時点での翻訳を指すんですね。

ちなみに、国内移行は国際出願日から30ヵ月以内に行う必要があります。

ここでもパリ条約が登場

実は直接出願と同じく、PCT国際出願でも「パリ条約に基づく優先権制度」を利用することができます。

例えば国際出願前に日本に直接出願をしていた場合、その直接出願を優先基礎出願とすることができるのです。

この優先基礎出願から12ヵ月以内に国際出願をすれば、国際出願日(つまりPCT加盟国への出願日)は、優先基礎出願日と同一とみなされます。

つまり、国際出願よりさらに最大12ヵ月早い時点を各国への出願日とすることができるんです。

これだと審査の際にさらに有利になりますよね。

ちなみにこの優先権制度を使用した場合、国内移行の期限は「優先基礎出願から12ヵ月以内」となります(「国際出願から」ではない)。
この場合、期限に少し余裕がなくなる可能性がありますね。

図で表すと

PCT国際出願の流れを図で表すと、以下のようになります。


(出典:知的財産権制度入門(特許庁)

直接出願とPCT国際出願の違い

これらの違いをまとめると、以下のようになります。

特許権を取得したい国の数、権利化のタイミングなどの条件を十分に考慮した上で、どちらの方法で出願するかを決める必要があるようです。

どちらの方法で出願するかは(おそらく)弁理士の方が決めるのでしょうが、いつ権利化されるかなどは会社の事業に直接関係する部分だと思われるので、弁理士の責任は重大ですね・・・。

おわりに

今回は外国出願時の方法について説明しました。

今後も知的財産権に関して(特に特許翻訳と関係のある部分に関して)情報発信していけたらと思います。

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