特許出願された発明がいつ公開されるのか、みなさんご存じですか??
普通に考えると、
「特許として認められた後に公開されるのでは」
と思いますよね?
少なくとも私は、ずっとそう思っていました。
しかし実は、これは間違いなのです!!
今回は、この「発明公開のタイミング」に関するお話をしたいと思います。
出願された発明は、ある時期が来たら全て公開される!
そうなのです。
特許権を取得できるかどうかに関わらず、
「出願された全ての発明は、ある時期が来たら全て公開されてしまう」
のです!!
まずは以下の図をご覧ください。
(出典:知的財産権制度入門(特許庁))
図中の緑色部分は、特許出願から特許取得までの流れを示した部分です。
特許出願→方式審査→実体審査→・・・という流れが示されていますね。
ここで、以下の赤丸部分に着目してください。
(出典:知的財産権制度入門(特許庁))
「公開特許公報の発行(1年6月経過後)」
と記載された、特許審査とは独立したルートがありますね。
ここが、出願された発明が必ず公開されるタイミングです。
特許権が取得できるかどうかに関わらず、このタイミングで必ず発明が公開されます。
そしてこのように、出願から1年6ヶ月経過したら出願された発明を公開する、という制度を
「出願公開制度」
と言います。
それでは、出願公開制度に関して詳しく説明していきましょう!
出願公開制度とは
出願公開制度の概要
先ほども記載しましたが、出願公開制度は簡単に言うと、
「出願から1年6ヶ月経過したら出願された発明を公開する」
という制度です。
この制度は、特許法第64条にて以下のように定められています。
「特許庁長官は、特許出願の日から一年六月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。」
(特許法第64条 抜粋)
しかし・・・、この制度、不思議じゃありませんか?
特許による効果の一つは発明の保護であって、これに基づくならば、発明は特許として認められてから公開されるべきではないでしょうか。
特許として認められる前に公開されてしまうと、その発明を第三者に模倣されるということも起こりそうですよね。
・・・ということは、出願公開制度の狙いは発明の保護とは別のところにありそうです。
この疑問に答えるには、出願公開制度の歴史についてお話する必要があります。
出願公開制度の歴史
出願公開制度制定までの歴史を、①~④で簡単に図解してみました。
①
かつては審査により特許権が付与された発明のみが公開されていました。
(やっぱり最初はそうだったんですね)
②
しかし特許の出願件数は年々増加し、技術内容も高度化。
それにより特許審査に時間がかかり、発明の公表が遅れがちになりました。
③
その結果、
「審査中の技術と類似した技術が世の中で研究され、類似技術が多数出願される」
といった事態が頻発しました。
前回のブログに記載したAさんとBさんの話と同じ事態が発生した、ということです。
これは無駄ですよね。
これでは重複発明に労力が割かれることになり、産業の発達が阻まれてしまいます。
④
そこで、③のような弊害を防止するために「出願公開制度」が制定されたのです。
・・・以上の歴史から考えるに、出願公開制度は
「特許制度の最終目的である、産業の発達に主眼を置いた制度である」
と言えそうです。
「発明の保護」よりも「産業の発達」を狙ったものだったんですね。
特許制度の目的にかなった制度ですね。
「発明の保護」の件はどうする?
出願公開制度は特許制度の目的である「産業の発達」を目指したものであることが分かりました。
しかし、ここで疑問が残ります。
特許権取得前の発明を公開すると、第三者にその発明を模倣されるというリスクがあるはずです。
いくら「産業の発達」を目指した制度であるとは言え、「発明の保護」をおろそかにしてもよいのでしょうか。
・・・はい、ご安心ください。
「発明の公開」により発生するリスクを最小限に食い止め、損失を補償するための権利がちゃんと用意されています。
この権利を「補償金請求権」と言います。
補償金請求権とは
補償金請求権の概要
出願公開制度により特許権取得前の発明が公開されると、産業の発達が促進されます。
しかし出願人にとっては、第三者に発明を模倣される危険が高まるというリスクしかないように思えますよね。
そこで、出願人には「補償金請求権」という権利が認められているのです。
一般的な説明は以下の通り。
「特許出願の出願公開が行われた後特許権の設定登録前に特許出願に係る発明を実施した者に対して、警告等を条件として特許出願人が補償金を請求できる権利」
(出典:今岡憲特許事務所)
詳しくは以下の図をご覧ください。
①
出願公開後、公開された発明を第三者が実施した場合、出願人はその第三者に対して書面で警告をすることができる。
(書面には特許出願している発明の内容を記載する)
②
無事に特許権を取得後、①の第三者に対して補償金を請求することができる(=「補償金請求権」の公使)。
③
第三者から補償金を受け取ることができる。
そして特許権取得後は、特許権により発明が保護される。
・・・つまり、特許権取得前に模倣された発明に対しても特許権取得後に補償金を請求できる、ということですね。
ちなみに上図でも示している通り、出願公開後に実施された発明に対してしか補償金請求権は発生しません。
そのため、第三者が出願後すぐに発明を実施する場合に備えて出願公開時期を意図的に早めることもできます(早期出願公開制度)。
もしも特許権が取得できなかったら・・・
はい、ここで皆さん以下のような疑問を持ったことでしょう。
「もしも特許権が取得できなかったら、補償金請求権を公使できないの??」
はい、その通りです。
出願公開されても特許権取得にまで至らない発明も多いため、補償金請求権は特許権取得後でないと公使できないようになっています。
つまり特許権を取得できなかった場合、出願公開後に模倣した第三者の勝ち!ということになってしまうのです。
・・・な、なんと恐ろしい・・・!!
出願公開制度によって発明の公開だけして、第三者に発明を模倣されまくった挙げ句、特許権を取得できずに何の保護も得られないケースがあるとは・・・!!
これって、発明内容を無駄に垂れ流しただけってことですよね・・・。
・・・特許を出願する際には、その発明で本当に特許を取得することができるのかをしっかり考える必要があるのですね・・・。
まとめ
出願された発明は「出願公開制度」により、出願から1年6ヶ月経過した時点で必ず公開される。
この制度は、「産業の発達」を目的としたものである。
「出願公開制度」だけでは「発明の保護」を実現できないが、それを補うために出願人には「補償金請求権」という権利が認められている。
しかし特許権を取得できなかった場合には「補償金請求権」を公使できないため、出願人が無駄に発明内容を垂れ流しただけになってしまう・・・。
というお話をしました。
今回出願公開制度を調べてみて、特許制度は個人の利益よりも世の中全体の利益を目的としたものであるということがよ~く分かりました。
(個人としては発明を垂れ流しただけ、というになる可能性もあるんですしね・・・)
確実に特許権を取得できるようにするというのが、弁理士や特許技術者、そして特許翻訳者の腕の見せ所なのでしょう。
特許翻訳者という立場では出願人と直接顔を合わせることはほぼありませんが、出願人が泣きを見ないよう、今後も丁寧な翻訳を心がけていきたいと思います!!
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