特許における「発明」にはいくつかの種類があるって、ご存じですか??
普段何気なく訳している請求項。
モノに関する請求項や方法に関する請求項など、いろんな請求項がありますよね。
その請求項を訳した際、クライアントから「権利範囲が狭くなるのでこういった訳し方をしてください」と言われたことはないでしょうか?
こんなこと言われたら、「え、権利範囲?何のこと??」とドキッとしちゃいますよね。
そこで今回は、特許における発明の種類とその権利範囲(特許権の効力の及ぶ範囲)について説明したいと思います!
発明には3つの種類があり、それぞれ権利範囲が異なる!
実は特許法における発明には3つの種類があり、各発明では権利範囲(特許権の効力の及ぶ範囲)が異なるのです。
請求項のひとつひとつが、各発明のいずれかに対応しています。
そのため、発明の表現方法(訳し方)によって発明の種類が変わってしまい、権利範囲が狭くなってしまうことがあり得るんですね。
では、
- 発明にはどんな種類があるのか
- 各発明の権利範囲はどこまでなのか
に関して解説していきます!
発明にはどんな種類があるのか
発明には、以下に示す3つの種類があります。
発明はまず大きく「物の発明」と「方法の発明」に分けられ、
「方法の発明」はさらに「物を生産する方法の発明」と「物の生産を伴わない方法の発明」に分けられます。
そして上記のうち、上図中に赤字で示した
- ①物の発明
- ②物を生産する方法の発明
- ③物の生産を伴わない方法の発明
の3つが「発明の種類」として定められています。
各発明の権利範囲はどこまでなのか
各発明の権利範囲は以下の通りです。
物に関する権利範囲を緑色、方法に関する権利範囲をオレンジ色で色分けしてみました。
上記マインドマップを見ると、各発明により権利範囲が異なることが分かりますね。
特に、「②物を生産する方法の発明」と「③物の生産を伴わない方法の発明」とでは権利範囲が大きく異なることが分かります。
「②物を生産する方法の発明」では、生産された物自体に関しても権利範囲が及ぶんですね。
もしも請求項の訳し方を誤り、本来「②物を生産する方法の発明」として捉えられるべきものが「③物の生産を伴わない方法の発明」として捉えられてしまうと、権利範囲が狭くなってしまうことになります。
やはり、請求項を訳す際には、今訳している請求項がどの発明に関するものであるかを意識する必要がありますね。
(補足)発明の単一性
これまで説明してきたように、ある特許における特許請求の範囲には発明の種類を複数盛り込むことができます。
このように各発明をひとつの書類でまとめて出願するには、それらの発明が
「発明の単一性」
の要件を満たしている必要があります。
簡単に言うと、
「二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しているかどうか」
ということらしいです。
この要件は少々複雑でややこしいので、ここでは説明しません(できません)・・・。
興味のある方は以下をご覧ください。
発明の単一性の要件(特許・実用新案審査基準)
事例:外国で生産して国内に輸入すると?
発明の種類とその権利範囲に関して、ひとつ事例を見てみましょう。
特許庁の知的財産権制度説明会資料からの抜粋です。
<事例1>
公知の化合物であるエチレンについて、従来の生産方法よりも効率よく生産する方法を発
明しました。この発明について「物を生産する方法」としての特許を取得した場合は、権利
者以外の者が同じ生産方法でエチレンを生産し、そのエチレンを国内に輸入すれば、生産地
が海外であっても、権利者の特許権の効力が及ぶことになります。(出典:知的財産権制度入門(特許庁))
この事例では、「物を生産する方法」としてエチレン製造の特許を取得したようです。
「物を生産する方法」の権利範囲について、もう一度確認してみましょう。
以下の図の黄色で囲んだ部分ですね。
そしてこの事例では、第三者がこの方法を用いて外国でエチレンを製造し、それを日本に輸入したようです。
通常、ある国で取得した特許の権利範囲が及ぶのはその国のみです(「属地主義」)。
そのためこの事例では生産地が外国であることから、エチレンを製造したこと自体を問うことはできません。
しかし今回は製造したエチレンを日本国内に輸入しています。
上図に示したように、「物を生産する方法」として特許を取得した場合は、「その方法により生産した物の輸入」に関しても権利範囲が及ぶため、輸入という行為を特許権侵害だと訴えることができるんですね。
もしもこの発明を「物の生産を伴わない方法の発明」として権利取得していたらどうでしょう。
この場合、権利範囲が及ぶのは「その方法の使用」のみなので、輸入したことを訴えることはできません。
製造場所さえ外国へ移せば、日本国内に持ってきても誰も文句は言えないのです。
やはり、発明の種類をどれに設定するかというのは非常に重要なことですね。
おわりに
特許法における発明には3つの種類があり、それぞれ権利範囲が異なるというお話をしました。
請求項において、各項がどの発明に該当するのか意識することが大切であるということを実感していただけたのではないでしょうか。
請求項を翻訳する際には、ぜひ今回の話を思い出してみてくださいね!
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